ミゲル・シヴィル名誉教授による古代史セミナー報告No.1
古代史ゼミで、外国人研究者によるセミナーを行いました。(唐橋教授、受け入れ)
【研究者氏名】
Miguel Civil (ミゲル・シヴィル)
【所属機関】
University of Chicago, Oriental Institute (シカゴ大学 オリエント研究所)
【職名】
Professor Emeritus (名誉教授)
【セミナー報告】
2008年10月21日(火)
「The “Farmer’s Instructions” and their World(『農夫の教え』とその世界)」
【概要】
シヴィル教授を中心に、シュメール語で大麦栽培についての教えを記した紀元
前18世紀のFarmer’s Instructionsを議論する、という非常に専門性の高いセミナーが行われた。シヴィル教授が1994年に自らテキストを刊行した『農夫の教え』(Farmer’s Instructions)は、シュメール語テキストの中で最も難解なものとされ、シヴィル教授の解釈を実際に拝聴できるのはまたとない機会であった。セミナーには、本学の学部・大学院の学生諸君だけでなく学外からもシュメール語の研究者が参加した。
シヴィル教授は、『農夫の教え』(Farmer’s Instructions)は、(田園生活に少々ノスタルジアを覚える)「都市住民」に向けて「大麦」のおおまかな「栽培過程」を「シュメール語」で書いたもので、実際の「農家の人々」のための「大麦栽培マニュアル」ではないことを強調した。
そして、その時代背景には、「北」(バビロン第一王朝のハムラビやサムスイルナ)が「南」に政治的圧力をかける中で、「南」のシュメール文化がそれへの反動として勢いを増し、シュメール語文学が栄えたことが挙げられるのではないか、と指摘した。その他、灌漑用水や鋤の各部分の名称等の具体的な説明もあった。(参加人数 22人)
【セミナー報告】
2008年10月23日(木)
「From Law Codes to Lyrical Poetry: Some not-too-well-known Sumerian
Literary Genres」
【概要】
このセミナーでは、『ウル・ナンマ法典』(the Laws of Ur-Namma)、『シュルギ・ララバイ』(Shulgi N)、および『ルディンギルラの伝言』(the Message of Ludingirra)の三つのシュメール語テキストが議論された。はじめに、シヴィル教授は、前回のセミナーの流れを受けて、the Song of the Plowing Oxen等に言及されている農耕祭と、それに代表されるような「労働歌」というジャンルが存在することについて説明した。
その後、教授自身が再構成した『ウル・ナンマ法典』のテキストをセミナー参加者に配布し、それに即してシュメール語文法、文学的表現、楔形文字の形態の変化等を論じた。『シュルギ・ララバイ』(Shulgi N)と『ルディンギルラの伝言』においても同様に、シュメール語テキストをどのように解釈するかを、問題点を一つ一つ挙げながら論じた。また、シュメール語テキストのコピー(“写本”)の中には、元のテキストを忠実にコピーした(写した)ものもあるが、書記たちが古めかしい文法をその時代のものにふさわしいように変えたり、あるいはわざと懐古主義的に古めかしい文法や字体を使ったりするなどしたので、必ずしも元のテキストを反映してはいない、と指摘した。(参加人数 14人)