【情報工学専攻主任から卒業生へのメッセージ】2007年度情報工学科、情報工学専攻学位記授与式式辞
2008/03/24
2007年度学位記授与式における専攻主任挨拶
情報工学専攻ならびに情報工学科の皆さん、修了ならびに卒業おめでとうございます。学科主任の趙先生に続き、専攻主任として皆さんにお祝いを申し上げます。
皆さんは情報工学に関する知識・経験を積み、大学院修了あるいは大学卒業者としての水準に達したとみなされて社会に出ます。大学院や大学では単位の積み上げで知識・経験・能力の獲得を判断しましたが、社会に出たらそれらを活用できるかどうかが問われることを強く意識してください。すなわち、自分が身につけた知識・経験・能力を駆使して、未知の、あるいは、既知であっても改善改良の必要がある仕事に取り組むことが求められます。皆さんの活躍を心より期待しています。
この観点で少しお話しいたします。本日皆さんは工学に関する修士号あるいは学士号を獲得します。では「工学」とはなんでしょう。世間一般で言われている「技術」とは何が異なるのでしょうか?日本語での区別は必ずしもはっきりしておらず、社会でも混同して使っていることが多いと感じていますが、ここでは私の考えも入れてわけて考えてみます。
「工学」とは数学、物理学などの自然科学を応用して、社会や環境を向上させるための知識体系を指します。知識ですから、それを理解した人は皆同じように利用できるはずです。対応する英語はengineeringです。英語のengineeringはengineerという職業に就く専門家がもつべき倫理観や経済観念をも含む、総合的な知識体系を指します。すなわち、engineerが行うこと、知っていること、使えることがengineeringです。この意味では、engineerを技術者と訳すと、専門家としての面が強調されすぎて合わない印象が残ります。
次に、「技術」とは、自然科学を実地に応用して役立てる「わざ」を意味します。対応する英語はtechnique、まとめたものはtechnologyです。technologyはengineering程には体系化されていません。例えば、その「わざ」を会得した人のみが使うことができ、何らかの方法で次の人に伝えていくことができます。
さらに、「技能」という言葉は、technologyよりノウハウ的色彩が濃くなり、特定の人のみが持っている技と言えます。技能は技術ほど一般化されておらず、その人限りで終わる可能性もあります。対応する英語はskillでしょうか。
このように、自然科学を応用して何かを現実に作り上げる土台として、engineeringとしての工学、technologyとしての技術、skillとしての技能の3段階があるといえます。皆さんは大学院や大学の講義で工学に関する知識を修得し、実験や演習で技術を身につけました。また、人によっては技能と呼べる何かを研究、実験、演習、講義の統合化でつかんだことでしょう。社会に出てからはこれら工学、技術、技能を惜しむことなく活用してください。また、個人に依存する技能を他の人が習い覚える技術に、そして技術を体系化して工学にすることにより、より良い社会の実現に貢献するようお願いします。その過程において、大学との係わりが重要と感じれば、指導教授への相談、大学との共同研究、あるいは、自分をさらに磨くための社会人大学院生への道、など、積極的に母校を利用してください。学生だけではなく社会人も継続して学び、社会や学問の変化に対応していくことが求められています。これまでに学んだことがすべてではありません。
また、仕事だけでなく、私生活も未知の領域となりましょう。しかし、皆さんは過去ならびに現状を把握して解決すべき課題を認識し、解決するための手段を考案・選択し、選んだ解決手段を実行し、それを評価し、今後に役立てる、という一連のプロセスを学びました。このプロセスはどのような対象でも皆さんの将来に大いなる力となることを信じています。これまでの保護者の方の愛情、大学・大学院に至るまでに出会った多くの人たちの好意・熱意に感謝しつつ、自らの力で新たな道を切り開き、後に続く皆さんより若い世代を導いて下さい。
ここで、本日ご出席の保護者ならびにご関係の皆様に申し上げます。この度はお子様方の卒業・修了を心よりお慶び申し上げます。皆様には、これからは保護者としてではなく、社会の厳しさを知る人生の先輩として、ご助言いただければ幸いに存じます。ただいま申し上げた通り、私どもも修了生・卒業生のさらなる飛躍に役立つ場を提供したいと願っています。どうぞよろしくお願いいたします。
最後に、修了生・卒業生諸君、自らの人生を進むにあたって、甘えは将来の不満足につながります。諸君の前途が充実し、輝くためにも、自らを戒め、励まし、時には褒めつつ、それぞれの道を歩んでください。
これをもって私からの祝辞といたします。本日はおめでとうございました。