理工学部長(情報工学科教授 田口 東)から受験生の皆さんへのメッセージ 「電車の遅延は、どのように防げるか?」
2月に入って、いよいよ入学試験が始まりました。試験会場まで、普段とは異なる経路を、長い時間を掛けて電車で移動することがあると思います。ときには通勤ラッシュに巻き込まれてしまうかも知れません。
通勤時間には、異なる種類の電車が頻繁に到着します。「普通電車」は各駅停車で比較的空いている、「急行電車」は速いけれども混んでいる、といった具合です。早く会社・学校に着きたい人がいる一方で、混雑を避けたい人もいますから、自分の都合に合わせることができて、合理的な方式に見えます。ところが、次のように「混雑による遅れ」という要因も加わりますので、思い通りにはいきません。
(1)乗り降りする人が多くなると、ドアの開閉に長い時間が掛かり、停車時間が延びる。
(2)一度遅れが生じると、次の駅で待っている人が溜まるので、遅れがさらに悪化する。
(3)一つの電車の遅れは、(たとえ空いていても)後続の電車に影響を及ぼす。
もちろん、これらのことを見越してスケジュールに余裕を持たせてはありますが、それを超える遅れがしばしば発生しています。そこで、いっそのことすべての電車を各駅停車にして乗客数を平均化すれば不規則な遅れが出にくくなり輸送効率を改善できるのでは、という逆転の発想をしてみました。
私の研究室では、コンピュータを使って、東京首都圏における個々の通勤客の移動を「時空間ネットワーク」上に再現して、実際に東急田園都市線を対象として普通電車だけのダイアグラムを作成し、輸送効率が向上することを学術的に示しました(鳥海重喜・中村幸史・田口東「通勤電車の遅延計算モデル」オペレーションズ・リサーチ、第50巻第6号、2005年6月)。この論文は学会より受賞し、第一著者である鳥海君は今年度、博士(工学)の学位を取得します。
なお、新聞報道によれば、2007年1月に、東急電鉄から田園都市線の再混雑区間で「ラッシュ時すべて各停」の方針が出されたとのことです。私は利用客でもありますので、その効果を体験するのを楽しみにしています。