【理工学部長から受験生へのメッセージ】災害対策=通学の心構え
前回に引き続いて電車ネタですが、今回は少し深刻で、さらに社会に役立つ応用の話をしましょう。
東京首都圏の朝のラッシュ時には、瞬間風速で約二百万人の人が走行中の電車に乗っており、また、ほぼ同数の人が駅にいます。そして、その中で地下鉄を利用している人は約四十万人います。日本は地震が多い国であり、ひとたび地震が起きると、東京だけでなく地方の大都市も(対策が無ければ)大きな被害を受けると予想されています。電車も例外ではありません。
地震対策の中で、被災者を効率良く救済する計画が非常に重要です。最終的に助かる人が最も多くなるように、限られた資源を割り当てるわけです。そのためには、様々なケースに対して災害発生時に何が起きるのかを詳細に把握しておかなければなりません。
前回お話した、首都圏における電車通勤客の移動を再現する、時空間ネットワークモデルを使うと、各時刻における、走行中の電車の位置、速度、乗車人数が分かります。それと、各地点での震度予測(中央防災会議資料)、震度によって電車が被災する程度を重ね合わせることによって、負傷者の地理的分布を詳細に計算できます。こうやって得られるデータは、ときどき議論されることがある帰宅困難者分布(ともかく無事な人です!)よりも遥かに重要な情報を提供します。
通学経路を含めて被害が小さいような下宿を見つけることは、実際上は難しいでしょうし、混雑を避けるというやや消極的な方策も、時間割によってままならないでしょう(朝からちゃんと授業に来て下さいね)。自治体や大学で考えられている防災計画に積極的に関心を持って頂くのが、エンジニア・研究者となる皆さんにとってベストな心構えであると思います。
いよいよ新学期。いつもエンジニア・研究者の視点から社会事象をとらえるよう心がけ、大学という新しい環境で頑張って下さい。
理工学部長 田口 東(情報工学科 教授)