総合政策学部教授・平野晋が監訳した「法と文学」[第3版](上・下)が刊行されました
中央大学総合政策学部教授・平野晋の専門は民事法学、サイバー法学。
製造物責任法と不法行為法、インターネット法、アメリカ契約法、などをテーマに研究を進めています。
このたび、平野晋監訳による「法と文学」[第3版](上・下)が刊行されましたのでご案内いたします。
【書 名】 法と文学[第3版](上・下)
【著 者】 リチャード・A・ポズナー 著/ 平野 晋 監訳 / 坂本真樹・神馬幸一 訳
【出版社】 木鐸社(ぼくたくしゃ)
【刊行日】 2011年11月15日
【本書について/監訳者 平野晋 2011年12月8日】
「law ands:ロー・アンズ」と呼ばれる〈学際法学〉研究が盛んなアメリカにあって、最も有名かつ影響力の大きな〈学際法学〉領域は、「法と経済学」である。これに次ぐ〈学際法学〉領域として著しい発展を見せるのが、「法と文学」である。本書は、前者「法と経済学」の第一人者として世界的にも非常に高名な、元シカゴ大学教授で現在は連邦控訴審裁判所裁判官のリチャード・A.ポズナーが著した、後者「法と文学」の書である。そもそも彼が1988年に『法と文学』(第1版)を著した理由は、「法と文学」の他の研究者達が「法と経済学」の非人間性を攻撃したことに依るという指摘もある。すなわち「法と経済学」の正当性を擁護すべく、近年の「法と文学」研究の方向性を批判することが主目的だったという指摘である。確かに2009年の第3版でも、既存の研究姿勢に対する批判は未だその名残を留めている。例えば難解な文芸批評を法律解釈に持ち込むことや、脱構築的思想、あるいは批判的法学研究や急進的な懐疑主義を、R.ポズナーは厳しく批判している。
しかし本書が版を重ねて第3版にまでも至った理由は、その歯に衣を着せないポズナー流のプロヴォカティヴな立場ゆえではあるまい。本書は単なる批判の書ではなく、「法と文学」という近年俄かに勃興し始めた研究分野を網羅的に扱っている。だから本書はこの分野の基本書としての価値を有しており、大学・大学院教育の教科書としても有用であると評価されているのである。実際、本書が扱う文芸作品は(英米文学がひときわ目立つ傾向は否めないとは云え)、古代ギリシャ悲劇諸作品に始まり、シェークスピア諸作品、ミルトン、スタンダール、ディケンズ、ゴールズワージー、メルヴィル、トルストイ、ドストエフスキー、カフカ、カミュ、レマルク、ヘミングウエイ、オーウエル、等々と枚挙に暇がない(以上は例示に過ぎず全てを挙げることは不可能)。加えてジョン・グリシャムのような大衆文学や、「マトリックス」のような映画作品に迄もその分析は及んでいる。更に「法と文学」研究を次のように分類化して論じることで、「法と文学」研究を網羅している。すなわちその扱う小分類は、法を扱った文芸作品から読み取る法の諸原理、法廷意見等に対する文芸批評的な解釈への批判、法律文書の質の向上に資する文芸作品の修辞学的分析、物語論、及び文芸作品への法規制(著作権や猥褻規制)等に迄も及んでいる。
日本にも「法と経済学」がアメリカから輸入され、研究が活発化されてきた昨今、これに次ぐ〈学際法学〉領域である「法と文学」の研究が日本で全く未発達な現状は嘆かわしいことである。そこに於いて、アメリカの〈学際法学〉研究の巨人、R.ポズナーの『法と文学』(第3版)の翻訳本が日本で出版された意義は、単にR.ポズナー研究者達の興味を満たすだけに止まらない。おそらく日本では初めての「法と文学」の基本書の翻訳書は、日本に於ける研究・教育の発展に資するだけではなく、「法と経済学」と「法と文学」との関係性等の、〈学際法学〉研究全体の更なる発展にも繋がる画期的出来事である。