統計力学・確率論セミナー
講演者:Tomio Petrosky 氏(東京大学生産技術研究所,Center for Complex Quantum Systems, The University of Texas)
題 目:タンパク質分子鎖における量子論的不可逆衝突演算子のバルタン星人型異常スペクトルとフラクタル構造
概要:タンパク質分子鎖上での分子励起子の運動量輸送に関する量子論的衝突演算子の固有値問題を論じる.励起子は分子鎖内のフォノン場よりなる熱浴に結合しているものとする.1次元系特有の共鳴効果のために,衝突演算子中での励起子の与えられた運動量は,それを代表運動量としてとびとびの値のみに結合し,全運動量空間はその代表運動量の値の違いによって,互いに交わらない部分空間に分解される.各部分空間内で結合する可能な運動量の値の数は,R = π-1arcsin B で定義されるR が有理数であるか無理数であるかに強く依存している.ただしここで,B はフォノンのエネルギーバンド幅と励起子のエネルギーバンド幅の比である.衝突演算子の固有スペクトルの関数としてRを画いた図を上に載せておく.その図は,磁場が掛かった2次元Bloch電子系のハミルトニアンのスペクトルに現れる良く知られた「Hofstadterの蝶々」と同様なフラクタル構造を示している.しかし,その形はロブスターや日本のテレビ番組に出てくるバルタン星人の形に良く似ている.また,その物理的意味はエネルギーに関するHofstadterの蝶々とは全然違っており, タンパク質分子鎖内でのエントロピー生成の複雑さを示した物である.
問い合わせ先:中央大学理工学部物理学科 香取眞理
TEL: (03) 3817-1776 E-mail: katori@phys.chuo-u.ac.jp