理工学部助教 國仲 寛人の研究が、Physical Review Focusに掲載されました。
理工学部助教 國仲 寛人(物理学科)が京都大学の早川 尚男教授(基礎物理学研究所)と共同で行った「異常反発」に関する研究が、Webサイト“Physical Review Focus”に掲載され、注目を集めています。
アメリカ物理学会が発行している雑誌“Physical Review”は100年以上の歴史があり、物理の分野ではもっとも権威のある論文誌とされています。分野ごとにA~Eまでの5冊に分かれており、今回紹介された研究は“Physical Review E”の3月号に掲載されたものです。“Physical Review Focus”は、特に注目に値する研究を抜粋・要約してWebサイトに掲載したもので、世界中の研究者やサイエンスライターがチェックしています。
「異常反発」とはどのような現象でしょうか。例えば、野球のボールを時速100キロで壁に向かって投げた場合を考えてみましょう。壁にぶつかったボールは、時速100キロのまま跳ね返っては来ません。モノとモノとが衝突するときには、運動エネルギーの一部が熱として放出されるからです。放出された熱は、運動エネルギーへと再び変換されることはありません。これは「熱力学第二法則」と呼ばれ、物理の教科書でも普遍的な法則として扱われています。
その法則を覆す可能性を提示したのが今回の研究です。肉眼で見えないミクロなスケールの世界では、時速100キロで投げたボールが時速110キロになって返ってくるようなことが起きるのを、國仲がコンピューターによるシミュレーションで示しました。数百~千個程度の原子が集結した「ナノクラスター」同士が正面衝突した場合、100回に5回の確率で、それぞれが衝突前よりも速いスピードで跳ね返ったのです。この現象は「異常反発(スーパーリバウンド)」として紹介され、大きな反響を呼んでいます。
なぜこのような不思議な現象が起こるのでしょう。物体が衝突するときのエネルギーは、物体が動くことで発生する重心の運動エネルギーと、熱エネルギーの和で表されます。熱エネルギーとは、物体の中で分子が振動することで発生するもので、肉眼で見えるくらいの大きな物体同士の衝突にはほとんど影響しません。しかし、ナノレベルの世界では、この熱エネルギーが無視できないほど大きな影響を持ちます。そのため、熱エネルギーの一部が重心の運動エネルギーに変換され大きな反発を起こす、ということが稀に発生するのです。
この現象はコンピューター上でシミュレーションされたものですが、現実世界で実験することも不可能ではないとされています。そのためには、原子の集まりであるナノクラスターを、クラスター間の引力を弱めるために表面をコーティングする技術と、ナノクラスターを操作するため、レーザーでピンセットのようにとらえる技術が必要です。これらの技術はすでに存在しているので、実験の実現に向けてシミュレーションによる事例をさらに積み重ねていきたいと、國仲は話しています。実験が成功すれば、これまでの定説を覆す革新的な事例となることが期待されます。
Webサイト“Physical Review Focus”と、國仲 寛人ホームページでは、ナノクラスター衝突のシミュレーション動画を見ることができます。リンク先をご覧ください。
また、東京新聞4月28日朝刊・19面「跳ねて速度アップ 常識覆すボール」でも、今回の研究が紹介されています。