【情報工学科 主任から卒業生へのメッセージ】 2006年度情報工学科卒業式学科主任式辞
2007/3/24
2006年度情報工学科卒業式学科主任式辞
情報工学科教職員を代表して、卒業のお慶びを申し上げます。本日ここに、情報工学科として67名の卒業生、情報工学専攻では24名の博士課程前期課程修了生、3名の後期課程修了生の皆さんを送り出すこととなりました。1992年4月に発足し、この4月に15周年を迎える情報工学科としては、皆さんは第12期卒業生に、また、大学院前期課程の皆さんは第10期となります。なお、今年は長らく勤められたIさん、ならびに、約2年間お勤めいただいたYさんも本学科を卒業いたします。Iさん、Yさんには我々教職員はもちろんのこと、学生の皆さんも大変お世話になったことと思います。ここにお2人を改めてご紹介し、皆さんの拍手をもって感謝の意を表したいと思います。
さて、大学院修了生に対しては後程専攻主任の浅野先生からお話がありますので、ここでは学科卒業生を中心にお話しします。
皆さんは情報工学の基礎を修めた者として、4月から社会あるいは大学院に進みます。高校までの初等・中等教育では、「工学」という授業科目はありませんから、大学で工学の入門から勉強し始め、4年間あるいはそれ以上の時間をかけて大学卒業にふさわしい知識と能力を身に着けたと認められたことになります。今日授与される「学士(工学)」はその証明書です。中央大学を卒業したという証明に加えて、獲得した知識と能力の証明の意味があることを意識してください。
そんな皆さんに二点考えて欲しいことがあります。まず、「情報工学」とはどのような学問なのか、次に、情報工学の基礎を修めた皆さんに社会は何を期待しているのか、です。
いうまでもないことですが、情報工学はコンピュータに関する学問です。中央大学情報工学科では、コンピュータの原理、コンピュータを構成するハードウェア、コンピュータを機能させるソフトウェア、そして、コンピュータを応用して実現するシステムに至るまで、「ハイクオリティ情報処理」のキーワードのもとに皆さんにカリキュラムを提供し、厳しい卒業研究を課しました。その結果、今期卒業できる人数は我々の予想を下回りました。簡単にいうと、4年前に入学した情報工学科学生のうち、5名に4名弱の割合しかこの場に臨めませんでした。
卒業を認められた皆さんは、現在あるいは将来に問題になることを抽出・整理し、問題解決のための調査を行い、問題解決のための方法を複数考え、複数ある中から与えられた制約下で最適な方法を選択し、選択した方法を実現し、実現した方法を評価・改善する、という一連のプロセスができることが期待されています。この一連の流れは「エンジニアリングデザイン」と呼ばれており、皆さんはエンジニアリングデザインを実行することができる人、すなわち「エンジニア」のエントリーレベルに達したとみなされています。
エンジニアはしばしば「技術者」とか「技能者」、平たく言って「ものづくりをする人」と和訳されますが、欧米でのエンジニアは法律、倫理、経済など専門分野だけでないは幅広い知識をもち、何かをこの世の中に実現するためのプロジェクトを指揮できるリーダーと位置付けられています。すなわち、「ものづくり」という現場だけが注目されがちなのですが、本当はそれだけではなく、先程学長が「知」と「徳」という言葉で述べられた幅広い知識と奥深い能力を求められる専門職業人、言い換えればプロフェッショナルであったり、研究者であったりするのです。
皆さんは、国際競争が激しくなる現代社会に押しつぶされずに、エンジニアとして指導的立場になれるよう、これからも研鑽を積んでください。さきほど「エントリーレベル」と言ったように、エンジニアとしてはこれからです。これから積む経験や獲得する知識、それらを総合する能力を向上させ、この社会をより豊かに、より安全に、より優しいものにしてください。それが工学を学んだことの証明であり、工学を学んだ者の責任だと考えています。
本日ご出席のご父母・ご家族の皆様に申し上げます。このたびはお子様のご卒業を心よりお祝い申し上げます。ただいま申し上げました通り、お子様は将来我が国であるいは国際的に活躍することが強く期待されています。コンピュータは今や我々の生活に深く入り込み、不可欠な存在です。現在のコンピュータならびにコンピュータを用いたシステムに満足せず、より良い方向に挑戦し続けることが卒業生には求められております。経験は一朝一夕には身に着きません。ご父母ならびにご家族のこれまでの経験に基づくアドバイスはきっと本人の成長に有効でありましょう。大学卒業で独り立ちとも言えますが、折に触れての助言は今後も是非お願いいたします。
卒業生の皆さん、コンピュータと人間が起こすトラブルが、時として莫大な経済損失をもたらしたり、あるいは、環境を破壊し人間の生命を脅かしたりする恐れがあるのは、これまでに見聞きしていると思います。コンピュータは完全ではなく、また、それを使う人間も完全ではあり得ません。完全でないものを組み合わせて、それでも、安全にするためにはどうしたらよいのか、正解はありません。その中でもよりよい方向を目指すために、人や社会への影響を深く考察でき、必要なことを実行できる人になってください。
皆さんの卒業を教職員一同心から喜び、洋々たる前途を期待しています。何よりも身体を大事にしてください。これをもって式辞といたします。ご卒業おめでとう。